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山田ルイ53世さんからあなたへ

我々にはキラキラした人生を
送る義務などない 山田ルイ53世

山田ルイ53世さん
山田ルイ53世さん

ひきこもり経験があった山田ルイ53世さん(46)=お笑いコンビ「髭男爵」=が、社会に漂う空気について語ってくれました。人生のすべてに意味や価値を見いだそうとしたり、オンリーワンを求めたりする風潮が、生きづらい社会につながっているのではないかと。一緒に考えてみませんか。

中2で余生が始まった

――中学2年生から6年間、ひきこもり状態だったそうですが、どのような日常でしたか。

きっかけは中2の夏休み前、登校途中に大きい方を粗相したことでした。まあ、それはあくまでキッカケで、勉強も部活もめちゃくちゃ頑張っていたので、単純に疲れ果てていたのだと思います。とにかく、そのまま夏休みに入って、2学期初日から不登校が始まった。しばらくひきこもっていると、ほどなく、昼夜逆転状態になりました。皆が寝静まった夜はいいのですが、昼間が厄介。部屋に閉じこもっていても、「キンコンカーンコーン……」といった授業のチャイムや、登下校中の子どもたちのガヤガヤする声だとか、そういう“世の中が動いている”活気や雰囲気が締め切った窓の隙間から侵入してくるんです。「それに比べて俺は……」としんどかったですね。

14歳にして、「すごく人生が余ったな」という感覚に苛(さいな)まれていました。ひょんなことから挑戦した中学受験で名門校に入って、その後も成績は良かったし、サッカー部でも最初からレギュラーと順風満帆でした。しかし、結局、不登校からひきこもりになって。「周囲の大人から褒められる・評価される」ことが好きで、それが自分を支えるものだったのに、学校に行かなくなって全部なくなってしまった。「中2で余生が始まった……」と途方に暮れました。

夢や目標がなかったことがコンプレックスだった

――「自分を支えるもの」は人によって違うと思いますが、山田さんの場合、「周囲の大人から褒められる・評価される」ものだった「勉強」と「部活」が二つとも学校にあったということですね。

大人に褒めてもらえるから、評価してもらえるから、というとちょっと嫌らしい子どもですが。夢や目標を持てというメッセージが世の中には溢(あふ)れていますが、あまり言い過ぎるのもどうかと思います。僕は大人になった今でも、大した夢も目標もない。せいぜい、「娘が自立するまでは稼がないと」くらいしか考えていない。夢や目標がないことが、コンプレックスになるのは馬鹿らしいなと思いますね。僕は小さいときそうでしたが。

山田ルイ53世さん
夢を持っていないと、目標を持っていないと駄目だっていうことを言い過ぎるのが、あまりよくないのかな

成功体験って「勝ち組」の平均値でしかない

――今の時代、特に若い世代は、何歳までに目標を達成するためには何歳までに何をすべきかといった人生の設計図を作れと言われがち。実際やっている人も少なくないと思います。でも、全員がその設計図通りに目標を達成できるわけではない。

勿論(もちろん)そうです。「諦めなければ必ず成功できるんだ」みたいな話がありますけど、諦める前に勝ち目が来ただけなんじゃないか、とも言える。成功したスポーツ選手、売れっ子のタレントといった世間的には「勝ち組」の人のおっしゃる成功体験は、「勝った人間」の平均値でしかない場合も多い。自分が一発屋というのもあるかもしれないですけれど、何の取りえもない人間でも、誰に責められることもなく、機嫌よく生きていけるような社会の空気の方が健全じゃないかと思いますね。

自分を諦めてあげる気持ちも大事かな

――ひきこもり状態になった後、今までの自分のポジションがなくなってしまい、もう復帰できなくなるというところにつらさを感じていたそうですね。

僕がひきこもり状態になったころは特にだと思いますが、「普通」っていう社会のレールから一度外れてしまうとリカバリーする選択肢が非常に少なかったんですね。実際、物理的にひきこもりを脱した後も、30過ぎでお笑いでご飯が食べられるようになるまで、薄いガラス1枚隔てて、世の中と関係なくなってしまった人間、といった感覚は続きました。まあ、若いときは、「元の場所には戻れない」と随分しんどい思いをしましたが、ここ何年かは、自分を諦めてあげる作業も大事なのかなと考えるようになりました。

山田ルイ53世さん
内なる衝動がない自分のようなタイプは、たぶん今の世の中ではあんまり良くない人と思われるんですけど、そういう人もいるんですよね

大切にしていた言葉は「とりあえず」

――マイナス思考の負のスパイラルに陥らないように努力したり心がけたりすることはありましたか。

基本的には、僕はポジティブでもなく、未(いま)だにマイナス思考ですが、当時も今も大切にしている言葉は「とりあえず」ですね。それも“小さなとりあえず”。例えば、外に出るという大目標があったとして、とりあえず自分の部屋からつま先だけちょっと出してみるとか、それくらいでいい。とりあえず玄関まで行こう、靴をそろえるだけ、とか。一足飛びに何者かになろうとしなくていい。とりあえず靴をはいて玄関で歩いてみようか。とりあえずちょっとでもいいから動く、自分の状況を動かしたっていう事実を大事にしていました。それで、なんとか大検とって大学に行ったりもしたんですけどね。

家族が自分の人生を楽しむと責められる社会の空気

――家族との関係はどうでしたか。

父親も母親も背中をそっと押すというよりは、飼っているグッピーが動かないなと思ったら水槽をバンバン叩(たた)くようなタイプでしたね。いや、世の中の親のほとんどはそうだと思う。小言も嫌みも散々聞かされましたが、自分が親になってみるとその気持ちは非常によくわかる。親の引き出しには対処の方法が入ってなかったということかなと。だからこそ、ひきこもりスタート、その初日に親父(おやじ)は僕にドロップキックをしてきたんでしょう。

大事なのは、子どもの不登校も、家から出られず働けなくなってしまった大人も、そんなに特別なことではないということ。人生のすごろくで普通に止まるマス目だとみんな理解した方がいいなと思います。

みなさんに伝えたいのは、親も一緒に沈み込まないで下さいということです。結局うちの両親も暗くなってしまったし、お袋は趣味もやめてしまったし。近所の人に会うと「山田さんとこ、学校行っていないの?」っていう雰囲気を出されていたんでしょう。「自分の子どもがひきこもっているのに、はしゃいだら体裁が悪い……」なんて考える親も少なくないでしょうが、そういうのは良くないと思っていて、ちょっとドライな言い方ですけど、親にも親の人生があるわけです。もちろん、子どもをほったらかしにするのはまずいですが、家族が自分の人生を楽しんだからといって、それを責めるような社会の空気は良くない。

山田ルイ53世さん
あんまり気軽に「普通」「普通」って言わない方がいいし、「普通」ってないんだ、「普通」こそ人それぞれ、多様性なんだと考えた方がいい

失敗を糧に成長しなければならない雰囲気

――山田さんはよく「人生は何回でもリセットできる」という言葉を使っていますね。

僕は、学校に通って、修学旅行に行ったり、勉強や部活に励んだりしていた方が、人生の思い出が豊かだっただろうなと後悔している部分が多い。もちろん人それぞれで、ひきこもっていた期間に出会ったことが今の仕事につながっていたり、趣味として続いていたりして、有意義だったと言う人がいてもいいし、そういう人がたくさんいた方が僕はいいなと思う。だけど、僕のように「無駄だった」っていう人がいてもいい。こう言うと、「でもその6年間があったから今の山田さんがあるんですよね」と食い下がられるというか、返されることがほとんど。とにかく、過去に意味を持たせようとする、失敗を糧に成長しなければならないといった雰囲気を醸し出してくる。過去に意味がなくても、失敗が糧にならなくても別にいいと思うんです。

繰り返しますが人それぞれ。日々生活をしていても何の糧にもならない時間帯なんて、みんないっぱいあるわけですから。ポジティブ思考や前向きでいようといったメッセージもいいですが、それこそが全て、最良の選択だと謳(うた)うことほど傲慢(ごうまん)なことはない。それがしんどい人もいる、そういう考え方に価値を見いださない人だっている、という当たり前の多様性を社会が知る、無視すべきではないと思うんです。

もう過去にとらわれないでいい「人生のリセット」を

――「人生は何回でもリセットできる」という言葉と「何回でもチャレンジできる」という言葉があります。山田さんはこの二つの言葉、どう感じますか。

「チャレンジ」という言い方には、「そんなに挑戦しないと駄目?」、「ちょっと息苦しいな……」という気持ちも正直あります。「リセット」は、あまりよくない意味で定着している部分がありますが、僕は、過去にとらわれる必要はないという意味で使っている。「ナンバーワンじゃなくてもオンリーワンであればいい」とか、「自分らしく生きればいい」みたいなことも簡単に言ってしまいがちですが、「オンリーワン」も「らしさ」も高い壁には違いない。何かと言えば、ハードルを課される、そういうメッセージがプラスだと信じて疑わないのは怖いことだと思っています。

山田ルイ53世さん
ひきこもりの人たちって結構忙しいんですよと言っときたい。ずーっと考えているんで頭の中が結構忙しかった。それに加えて今はスマホがあるでしょ

その可能性がないと自覚できた人の方が次に移りやすい

――山田さんと同世代の40代の人たちやその上の世代の人たちにも、様々な要因でひきこもり状態の人たちがいます。

一概には言えないですけれど、ちょっと人生で失敗してしまって、自尊心から自分を許せず家から出られない、といった人であれば、1回、自分を諦めてあげるっていう作業は大事だなと思います。やっぱり自分のハードルを一番上げているのは自分の場合が多い。厳しい言い方かもしれないですが、僕が人生何度だってリセットしていいんだと思うのは、「取り返しのつかないことだってある……」ということをのみ込む、受け入れるってことなんです。もう自分にはその可能性がないと自覚できた人の方が、次の行動に移りやすいというか。

ひきこもりからの復活と呼んでいいのか

――40代半ばになった山田さんは、ひきこもりたいなと思う瞬間はあるんでしょうか。

冷静に自分の今の生活を考えてみると、ひきこもっているころとそれほど変わらない。人付き合いも全然ないんですよ。テレビに出るときなんかは、事前にアンケートを書くんですが、「仲の良い芸能人は誰ですか?」という質問が定番で、いつも困る。なので、自分がひきこもり状態から華々しく復活できたのか、まあ、そもそもひきこもりを脱することを復活と呼んでいいのか分かりませんが、とにかく色々考えます。ひきこもり暮らしが一番体調が良いという人もいるわけですから。社会に出て働いている人が善で、ひきこもっている人が悪とも思えない。通勤電車の中で皆延々とスマホに目を落としていますが、あれも僕には、「ひきこもりのモバイル型」に思える。

山田ルイ53世さん
やっぱり心に刺さらない時期みたいなものはあると思うんです。だから、寄り添いこそ最強みたいに思うのは違うな

充実した人生って何ですか?

――ひきこもり状態ではないけど、生きづらさを感じている人たちが世の中にはたくさんいます。

やっぱり僕たちには、キラキラな人生を送る義務はないっていうことをもっとわかって欲しい。そんな素敵に暮らしたり、生き生きとした人生を送ったりしていないと駄目だという少なくとも義務はないよっていうことを考えてみるべきでしょう。週末BBQしないと、キャンプしないとダメ人間なんだと程度の差こそあれ信じている人が多過ぎる気がします。

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山田ルイ53世さん

PROFILE

山田ルイ53世(やまだ・るいごじゅうさんせい)

1975年生まれ。相方のひぐち君と結成したお笑いコンビ「髭男爵」でブレーク。ワイングラスを掲げ「ルネッサ~ンス!」のフレーズと乾杯漫才で知られる。主な著書に『ヒキコモリ漂流記 完全版』『一発屋芸人の不本意な日常』『パパが貴族』などがある。

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