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東畑開人さんからあなたへ

ひきこもりの人や支える家族には「聞いてもらう」に希望を持ってほしい 東畑開人

東畑開人さん

臨床心理学者・臨床心理士の東畑開人さんは、東京都内のカウンセリングルームで、長年現代人の心の問題に向き合ってきました。2022年10月には新書『聞く技術 聞いてもらう技術』(筑摩書房)を出版。ひきこもりに関しても、誰かに聞いてもらうことが重要だと指摘します。

ひきこもりの人にとっての安全・安心感とは

――臨床心理学者、臨床心理士として東畑さんがひきこもりに関して、まず世の中に認識してほしいことは何ですか。

東畑開人(以下、東畑):ひきこもりと呼ばれる人たちにとって必要なのは、“現実的な安全”と“実際に安心を感じられること”だと考えています。
例えば周囲の人が、いいきっかけになればと「ちょっとだけ学校に行ってみよう」とか「とりあえず職業訓練を受けてみたら?」なんてアドバイスをする。それはきっかけというより、到達点なんです。安心があって、人のいるところに赴くことができるわけですから。
もしかしたら、周りは「部屋でひきこもっているなら安全じゃないか」と思うかもしれませんが、そうではありません。たとえ一人でいたとしても、心の中には恐怖や不安が生じているからです。周りの人に迷惑だと思われているんじゃないか、軽蔑されているんじゃないかと、頭の中でいろいろな声が聞こえてしまう。そういった心の状況を理解したうえで、どうしたら安全や安心感を持って過ごせるだろうか、ということをまず考える必要があると思います。

東畑開人さん

――安全や安心感というのは、どこから生まれるのでしょうか。

東畑:基本的には人とのつながりからだと思います。このことを理解する上で、「孤独」と「孤立」の違いは重要です。
僕自身、「孤独」は人とのつながりがある前提でのひとりと捉えていて、そこにはある種の安心感があると考えています。対して「孤立」は人と断絶しているがゆえに、頭の中では悪い他者たちの声が響き続けている状態でしょう。ですから、孤独なときにはひとりで自分と向き合って考えることができるけど、孤立だと不安に圧倒されてしまいます。必要なのは、“自分を傷つけない他者がいる”のを実感すること。それはつながりの中でしか得にくいと思うんですね。

ひきこもりの原因として、いじめやパワーハラスメントなどの暴力を受けてきた過去は少なくないです。暴力は人間に対する絶望を生み、希望を壊してしまいます。その結果、人との関係を断絶せざるをえなくなってしまう。信頼や希望といった誰かを信じる気持ちみたいなものが損なわれてしまうと、人への恐怖とか不安で社会から孤立してしまうんです。周囲はその恐怖や不安を理解する必要があります。それらを理解されることそのものが、孤立から抜け出すことへと結びついていく。人間関係に傷ついたことで苦しくなる一方、つながりという人間関係が解決の糸口でもあるんです。

「つながろう」は大きな達成

――つながりという点では、最近ではひきこもりの当事者会や自助グループの活動も盛んになってきました。

東畑:そういったつながりはとてもいいと思います。同じような状況の人とつながって、みんな自分と同じような境遇なんだなと思うのは、心に安心や希望をもたらしてくれます。ひきこもり経験者が当事者を支えるピアサポートも素晴らしい取り組みだと思います。そうした安心できる場を見つけるのは本当に大切ですね。
そもそも、そういう場所に行って、つながりを見つけようとしている時点で回復なのだと思うんですね。なぜって、「変わりたい」「つながろう」と思う気持ちや行動は希望そのものじゃないですか。人間への絶望に打ちのめされていた人が、何かしら希望を抱いている時点で大きな達成だと僕は思うんです。

逆に、ひきこもりの当事者の人には、“自分が悪い”という考えは遠ざけてほしいと思います。絶望感に苦しんでいる状況ではどうしても「自分の努力不足」とか「自分の能力が足りないから」と悲観的になりがちです。でも、実際はそうじゃない。苦しさの原因が自分にあるという自己責任のロジックは今の日本に満ちあふれていますけど、実際は周囲の人間関係に問題があったり、その周囲もまた社会・経済的な問題を抱えていたりする。問題が自分の内側ではなく、外側にあることがとても多いように思うんですね。ですから、今ひきこもりは、社会の問題として捉えられているのだと思います。

東畑開人さん

――ある意味、世の中のせいにするぐらい開き直ってもいい。

東畑:渦中にいる当事者にとってはなかなか難しいかもしれないけれど、そう思いますね。僕は、孤立が個人的な問題と扱われている状況自体が問題だと思っています。やはり社会の中で生じている問題なのだから、社会全体の課題として考える必要がある。
ひきこもりのご家族からは「どう声掛けしたらいいですか?」「どこに連れて行ったら良いですか?」と、対応の仕方を聞かれます。でも、本当に大切なのは部屋にひきこもっている本人をまずは理解することだと思うんです。言い換えれば、話を聞いたり、恐怖や不安を受け入れたりすることが、先ほど言った回復に近い。本人は「家族に申し訳ない」と感じるかもしれません。でも、一番身近にいて、頼りやすいのは家族です。少しでも心を許せるといいなと思います。

人に「聞いてもらう」に希望を持って

――東畑さんの新書『聞く技術 聞いてもらう技術』では「誰かと話をすることで心が楽になる」と記されています。ひきこもりを支える家族にとっても「聞く」という行為が重要ということでしょうか。

東畑:「聞いてもらう」には力がある。孤立しているときには考えたり感じたりできないことが、つながりがあるときにはできます。それは確かです。
ただ、難しいのは、絶望のどん底にいるときに、人は自分の話を「聞いてもらう」ことにすら絶望しやすい点です。それでも、回復した人は振り返ってみて、誰かに話を聞いてもらった経験に意味があったと実感していることが多いはずです。その意味では、ひきこもりの当事者には「聞いてもらう」に可能性を感じてほしい。聞いてもらえたらゴールなんですよ。「自分が感じている恐怖や不安を誰かにわかってもらえると、心が楽になる」ということを伝えられたらなと、その本を書きました。
先ほどつながりの話をしましたが、SNSといったインターネット上の関係でもいいと思いますよ。そこで少し弱音を吐いてみたり、オンラインゲームで誰かと話してみたり、小さな人間関係の積み重ねが実はすごく大切なんです。

もちろん家族との人間関係も大事。ひきこもりを考える上で、実は支える側・家族が「聞いてもらう」ことも重要です。ひきこもりを支える側も、理解しようとする過程でつらさを感じたり、社会から孤立したりしてしまうんですよ。でも、支えるほうが疲弊してしまったら元も子もないじゃないですか。支援者が孤立していては孤立を癒やすことができないわけですし、支える人もぜひつながりを持ってほしいですね。支える側が支えられないといけないし、支援者も悩みや弱音を誰かに聞いてもらったほうがいい。「ひきこもり地域支援センター」でもいいですし、支える側の家族の頼れる場所を増やしていくことが大切かなと思います。

東畑開人さん

怖くなったら、引き返していい

――ひきこもりから脱しようとする過程で、思いがけず傷つく体験があるかもしれません。そうした場合はどうすればいいのでしょうか。

東畑:落ち着くまで、いったん撤退したらいいと思いますよ。また外に出て行こうと思うタイミングがいずれ来るはずですから。周囲は待ってくれると信じて、怖くなったらまた引き返したらいいんです。世の中には撤退するのが大事なときもある。

――動物は危険を感じたら逃げます。人間だけは逃げる行為にネガティブな印象を持っているけれど、そうではないということですね。

東畑:そう思いますね。傷ついた時に痛くないだろうと言われてもやっぱり厳しいんですよ。痛いものは痛いし、逃げたいときに逃げられるならば、安心です。「甘え」や「怠け」だなんて思う必要はないです。安心できる退路があったほうが、より次の段階に進みやすい。

ただ、何かを決める際にすぐに決めないように注意してほしいです。孤立している時はどうしても思考がネガティブになりがちですし、極端なことを考えやすいので、何か判断を下すにしても3日くらいは待ったほうがいいでしょうね。時間が経てば心も落ち着いてきますし、物事の穏やかな部分も見えてくるはずです。

東畑開人さん

――最後に、ひきこもり状態にある人たちに向けてメッセージをお願いします。

東畑:まず、この記事にたどり着いた時点で大きな進歩。「外の世界に何かいいものがあるかもしれない」と期待したからこそ、この記事を読むことになったと思うからです。
ひきこもりの回復のきっかけと言われている方法は、本質的にはゴールそのものだと思うんです。立ち直りたいと思う気持ちや行動は、まさに希望そのものが再生しているということ。何か少しでも希望を抱いたり、期待したりしたら、それはとても大切なことが起きている。
同時に、傷ついたら、落ち着くまで休んだらいい。体が休まると、心も休まってきます。そうすると、また希望は戻ってくるはずです。落ち着いているときには、周りの怖いところばかりじゃなくて、やさしいところも少しは見えてくるようになるでしょう。

東畑開人さん

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東畑開人さん

PROFILE

東畑 開人(とうはた・かいと)

1983年東京都生まれ。臨床心理学者、臨床心理士。白金高輪カウンセリングルーム主宰。京都大学教育学部卒業、京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。著作活動にも力を入れており、2019年に出版した『居るのはつらいよ』(医学書院)では大佛次郎論壇賞と紀伊国屋じんぶん大賞を受賞。『心はどこへ消えた?』(21年、文藝春秋)、『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』(22年、新潮社)など著書多数。

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