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田口ゆりえさん×池上正樹さんからあなたへ

ひきこもりを支える家族は「つながり」に頼ることが大切
家族会の代表・田口ゆりえさん×KHJ池上正樹さん

田口ゆりえさん×池上正樹さん

ひきこもりの子を持つ母親と、ひきこもりに関する取材を続けてきたジャーナリスト。ともに「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の活動に関わりながら社会問題を間近で見つめてきた田口ゆりえさんと池上正樹さんが、ひきこもりを支える家族にとって必要なことを教えてくれました。

お二人はともに「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」に携わっています。「KHJ」は「Kazoku」「Hikikomori」「Japan」の頭文字をとったもので、ひきこもりを抱えた家族や当事者を支える全国組織の家族会となっています。

田口ゆりえ(以下・田口):私が最初にKHJという家族会の存在を知ったのは20年くらい前のことです。親族がひきこもりの問題に直面していたのですが、当時は相談機関というものが本当になかったんです。保健所に行って相談したら「ひきこもりのことは全然わからないので申し訳ないです」と言われたくらいです。そんなときに、新聞でKHJの東京大会が開催されるのを知って、まさに地獄に仏を見たような心境でした。

池上正樹(以下・池上):「ひきこもり」という言葉が世の中に出てきたのが確か2000年ごろだったと思います。私自身、小学校のころにクラスメイトの誰とも喋れなくて一人ぼっちだったし、振り返れば4歳年下の弟もひきこもり状態だったこともあり、なぜこういうことになるのか知りたくて取材を始めたのが97年のことでした。そうした取材を重ねるなかでKHJに関わるようになりました。現在では広報担当理事という役割を担っています。

田口:KHJの家族会とつながってみての一番の救いは仲間との出会いでした。「私と同じ悩みを抱える人がこんなに大勢いる」「ここではなんでも話せて聞いてくれる人がいる」「理解し合い、学び合い、支え合える」といった安心感を得て、仲間の存在に助けられながら生きていく人生がスタートしました。2009年からはKHJ埼玉けやきの会家族会の代表を務めています。

池上:ひきこもる子の生活を支える親御さんなどにとって家族会の存在はとても重要です。ひきこもり状態については、国の制度がまだまだ整備されていないんです。障害認定や診断名がつかなければ何の行政サービスも受けられない。それでどんどん取りこぼされているという人たちがたくさんいて、どうすることもできずに状況が煮詰まってしまう人たちを何人も見てきました結果、時間だけが過ぎていくという状態が「8050(はちまるごうまる)問題」の背景にあると思います。

生きるために安全安心な家の中に逃げざるを得ない

田口ゆりえさん

――「8050問題」とは80代の親が収入のない50代の子どもを支える状況のことですね。親子共倒れのリスクもあると言われています。

田口:先ほど池上さんが障害認定とおっしゃいましたが、あるケースでは本人が望んで医療機関につながって発達障がいと診断されました。ですので、障害年金をいただけるようになりましたし、さまざまな支援を受けられる精神障害者保健福祉手帳も持っています。とはいえ、診断名のつかないひきこもりに対しても手厚い世の中になればいいなと思っています。ひきこもりや「8050問題」は個人や家庭の問題ではなく、社会問題としてとらえる必要があると考えています。

池上:田口さんのおっしゃるとおりで、いじめや会社での人間関係、仕事での見えないストレスなど、もともと社会の側にあるさまざまな問題がひきこもるきっかけになっているケースは多いんです。そのなかで社会ではうまく生きていけず、命の危険を感じ、生きるために安全安心な家の中に逃げざるを得ない。それが「ひきこもり」という状態になっているわけで、目の前の個人の体調を回復させるだけではなく、本人たちが感じる社会にある問題に目を向けて一緒に変えていくくらいの気持ちで寄り添っていかないと、なかなか本質的な解決にはつながっていかないと感じています。

田口:ひきこもりって突然なるものじゃないんですよね。学校の欠席が多くなったり、発熱や中耳炎になったり、突然歩行できなくなったりといった身体的な症状が出ていました。生きていくうえで何らかのストレスを抱えていくのだろうと感じます。

誰にでもひきこもる可能性がある

池上正樹さん

――多かれ少なかれ誰もが生きづらさを感じているわけで、ひきこもりが生きづらさの延長にあるのであれば、誰しもがひきこもりになる可能性があるということですよね。他人事ではなく、当事者意識を持ってこの問題を見なければならない気がします。

田口:まさにそのとおりで、社会問題という点で言うと、競争社会がひきこもりの要因の一つになっていると感じます。負けや挫折がつきものの競争社会が知らず知らずのうちに私たちの心を蝕んでいるんじゃないでしょうか。そんな競争社会で、ほとんどの人が必死になって頑張っているんですよね。ただ、我慢して我慢して、それがいつか糸が切れてぷつんとなったときに誰にでもひきこもる可能性がある。逆に言うと「自分はこんなに我慢して頑張っているのに、なんでお前はひきこもるんだ、甘えだろう」と感じるような人がいる点も、生きづらさを増長させている気がします。

池上:親の世代では頑張れば報われたかもしれませんが、今は頑張っても必ずしも報われない時代です。会社の雇用形態も変わってきていますよね? それなのに親が昔の価値観のままで「正社員になれないってどういうことだ? 頑張りが足りないんじゃないか」となると、子どもはものすごく苦しくなってしまいます。最近ではコロナ禍で雇用が切られたり、事業や収入がなくなったりしている方もいます。つまり、自分のキャリアが全部白紙になったとか、生きる気力がなくなったとか、本当に誰もがひきこもりになり得る時代になっているわけで、決して他人事ではないと認識したほうがいいと思います。

家族会はひきこもりを支える家族の居場所

田口ゆりえさん

田口:私が代表を務めるKHJ埼玉けやきの会家族会では、「まずは本人の状況を理解して受け入れてあげましょう」という基本姿勢を大切にしています。私が最初に感じたように、家族会はひきこもりを支える家族の居場所になっています。定期的に仲間と会うことで心を落ち着かせることができたり、他の人の話を聞いてほっとしたり、自分の気持ちを聞いてもらって楽になったり、つながることは本当に大事だと思います。

池上:田口さんのお話どおり、つながることはとても大切です。一方で多くの家族はどこにもつながりを持っていないというか、助けを求めたがらない現実があります。「ひきこもりの家族の存在を知られなくない」とか「ひきこもりが恥ずかしい」とか「相談しても傷つけられるだけで支援に失望した」とかいろんな理由があるようですが、私が気になるのはひきこもりに関して、父親の関与が少ないご家庭がまだまだ多い点ですね。最近になってようやく父親の家族会の参加率も徐々に上がってきているのはいい傾向だと感じていますが。

田口:確かに増えてきていますよね。それに、最近は割と早めにつながったりしてくれます。夫婦一緒に個別相談会に参加してくれるご家庭が多くなってきました。

父親の理解が大きな救いになる

池上:父親が関わってくれると劇的に変わるんです。親子関係がかなり変わる。父親が家族会や講演会、学習会などで、自分の考えとは違うと思いながら話を聞いてくれるだけでも、実は家に戻ると子どもに対する接し方が違ってくるんです。ひきこもっている子からすると、微妙な空気の変化がわかるらしいんです。なんかうちの親は変わったなみたいな。元々、お互い顔も合わせたくないという父子の事例は多く、父親が家族関係の改善に向けて果たす役割はとても重要だと思います。

田口:一般的に父親は圧力になっています。やっぱりひきこもっている本人にとっては世の中で頑張ってちゃんとした地位を保っている父親は社会の顔なんです。そういう存在が身近にいるだけでつらい心境になるんですが、その父親が理解を示してくれるのは大きな救いになっているのではないでしょうか。

池上:とくに社会的立場のある父親を中心に、自分はそういう助けを求める立場じゃない、助けられる弱者ではないという、そういう親御さんがまだまだ多いと思います。親が覚悟を決められずにいると、悩みや問題を先送りしてしまって、万一のとき子どもに負担を強いることになります。外部の信頼できる第三者につながって情報収集しておかないと、地域の中で家族ごと孤立し、親子ともども疲弊して追い詰められることもある。まずはどこかにつながってもらうということが大切なんです。一番いいのは同じ仲間がいる家族会だと思うんですよね。KHJのアンケート調査でも、家族会に参加するようになった家族の約73%は、「気持ちが楽になった」とか「子への対応や考え方が変わった」「本人との関係が良くなった」「元気をもらえた」と答えるなど、何らかの変化があったというポジティブな結果が出ています。

田口:家族会には仲間がいます。定期的に学習会を実施していますし、ひきこもりが悪い方向にいくケースは少ないです。ですから、どこともつながっていない方がいちばん危険だと思いますよね。どんどん親自身が不安になって、たとえば「働かないでこの先どうするの?」というふうに責めてしまう。ひきこもりに対しては叱責、無言の圧力、否定的態度は御法度ですから、そのあたりの対処法も家族会などで学んでもらえたらうれしいです。

池上正樹さん

池上:人それぞれではありますが、ひきこもり状態にある人のゴールを就労に設定するのは少し危険です。本人が頑張って就労できたとしても「働けるようになって良かったね」と親や周囲が喜ぶほど、「周りがこんなに喜んでくれているのだからもっと頑張らないと」と自分で自分を追い込んでしまう特徴があるし、再び社会で傷つけられたり、命の危険を感じたりしたときに、本人は逃げ場がなくなってしまうからです。だから、常にちゃんと逃げ道を作ってあげる。「別に無理しなくてもいいんだよ」「休みたくなったら休んでいいんだよ」「しんどくなったときは辞めてもいいんだよ」などと声かけしてあげられると本人も安心できます。まず、日々生きていることが何より大事ですし、親御さんの心の余裕や寛容なサポートは、家族が迷いや不安に覆われたときに、家族会などに参加することで後押しされ、心が救われることは多いのではないかと思います。

田口:よくこの世界では「寄り添い」「伴走」という言葉が使われるんですが、まさにそういうことだと思うんです。叱責、無言の圧力、否定的態度ではなく、寄り添ってくれる人、伴走してくれる人がいることによって自分の人生を自分で生きているんだという実感が持てるようになる。家族会はひきこもり当事者と支える家族に対する「寄り添い」「伴走」を重視する場所ですから、ぜひつながってほしいですね。

池上:家族同士のつながりが親子関係の改善も促しますし、親子そろって孤立に陥ることを防ぎます。「助けて」と声を上げられずに時間だけが過ぎていくと、あっという間に「8050問題」に直面してしまう。親が元気なうちに、自分に万一のことがあったときのことを考え、残された家族がそれぞれ尊厳を持って生活していけるように情報共有しておくことが大事です。いざときときに自分が頼れる場所を見つけるだけでも、ふだんから心の余裕も生まれてくると思います。

田口:予防対策と現状対策にもつながりが必要だと思っています。たとえば予防対策ではひきこもりの人を社会とつなげようというアイデアで、廃校の教室を利用したキノコ栽培や古本の商品化、校庭を活用した野菜栽培など社会とつながるプロジェクトを展開する。それにはひきこもりを特別視せず多様な選択ができる社会的包摂の浸透が重要になってきます。現状対策については、地域包括支援センターの訪問支援とひきこもり支援をマッチングした法整備が考えられます。いずれにせよ、社会のほうからひきこもりにつながってくる動きが増えてくると、もっと良い世の中になるのではないでしょうか。私は「ひきこもりに優しい社会はみんなにとっても優しい社会」と声を大にして言いたいです。

取材・構成 菅野浩二(ナウヒア)

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田口 ゆりえさん

PROFILE

田口 ゆりえ(たぐち・ゆりえ)

看護師として大学病院などに勤務。受けていたひきこもり相談をきっかけにKHJ全国ひきこもり家族会連合会に関わり、2009年からKHJ埼玉けやきの会家族会の代表を務める。月例会、学習会、個別相談、無料電話相談、兄弟姉妹の会、発達障害のグループ相談会、B型就労支援機関との連携など、幅広くひきこもりに直面する家族をサポート。著書に『親亡きあとの子のマネーぷらん』『学習会記録集』『親によるひきこもり回復の参考書』(KHJ埼玉けやきの会家族会発行) 。

池上 正樹さん

PROFILE

池上 正樹(いけがみ・まさき)

大学卒業後、通信社勤務を経てフリーのジャーナリストに。ひきこもり問題や東日本大震災などをテーマに精力的に取材を続ける。KHJ全国ひきこもり家族会連合会の広報担当理事も務める。著書に『ひきこもる女性たち』(ベスト新書)、『大人のひきこもり』(講談社現代新書)、『ルポ ひきこもり未満』(集英社新書)、『ルポ「8050問題」』(河出新書)など。

contents 当事者・経験者の声に触れよう

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