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松山ケンイチさんと荻上直子さんからあなたへ

「ひきこもり」は自分をガードするため。何かの役に立たずとも、そこにいていい 荻上直子監督×松山ケンイチ 映画『川っぺりムコリッタ』対談

取材・構成 中村千晶

松山ケンイチさんと荻上直子さん
『川っぺりムコリッタ』の主人公・山田を演じた松山ケンイチさんと、監督・脚本を務めた荻上直子さん

2022年9月16日に公開された映画『川っぺりムコリッタ』。主人公は家族も生き甲斐もなく、北陸の小さな町に越してきた孤独な青年。安アパートの住人と出会い、囲まれて、ささやかな幸せに気づいていく物語です。人はだれしも孤独ではないと実感するには――? 監督の荻上直子さんと主演の松山ケンイチさんに、映画制作の背景やご自身の体験を聞きました。

「ただ一緒にいるだけ」の状態から始まる

――本作は人と人のつながりが希薄な現代社会において、つながることの大切さを実感できる物語だと感じます。松山さん演じる山田は積極的に社会と関わろうとしない青年ですね。

松山ケンイチ(以下・松山): 山田は「生きていてもしょうがない」と思っているキャラクターだと思います。自分の周りの社会に対して、希望を見いだせていなかった。そんな彼が自分と同じようにさまざまなものを抱えている人たちと触れ合うことで、人間関係の駆け引きやマウンティングなどではなく「ただ一緒にいるだけ」の状態を経験する。そのことで色々なものが見えてきたり、気づいていく話だと思います。

荻上直子(以下・荻上): 山田は生きることに貪欲じゃないんですよね。いまの時代は将来に何の希望もないような状態になっているような気がします。「大人になったらこうなりたい」などの夢を抱くことも難しい。そんな中で若者たちは一体何を目指して、どう生きていったらいいのか? せめてちょっとずつでも、ささやかな幸せみたいなものを見つけていかないと厳しいだろうなと。そんなことを思ってこの映画を描きました。

松山:山田が人と触れ合い出すきっかけは、隣人の島田(ムロツヨシ)が押しかけてきたからですが、正直、最初は「厄介な隣人」でしかないんですよね。僕だったら「風呂貸して」って言われても絶対断るし(笑)。でもそんな関係が巡り合わせの中でちょっとずつ変わっていく。山田と島田はそれがあったからこそ、生きていられたのかもしれない。どこに自分の命を繋ぎ止めるきっかけがあるかわからない。本当に奇跡だなと思います。

松山ケンイチさん

――島田のような第三者の存在は、現実社会でも重要だと感じます。二人が「一緒にごはんを食べる」シーンもとても印象的でした。

松山:一緒にごはんを食べるときって、その人と向き合っている時間でもあるわけですよね。そこでする「相手の観察」みたいなものが、一つのきっかけとか気づきになったりする。島田とごはんを食べる、という行為自体が山田にとっては救いだったのかもしれない。

荻上:今回は「死」や「遺骨」が重要なテーマでもあったんです。その真逆にあるものが「生」だとすると、食べるという行為は「生」と直結する、とても大切な描写だなと思いました。山田はそれまで「お金を出さないと食事はできない」と思っていた部分があるんですけど、実はすぐ手に届く場所にあるアパートの庭で美味しいナスやキュウリ、トマトが栽培されていて「お金じゃなかったんだ」と気づく。「生」と「食べもの」が直結していて欲しかったんです。

松山:山田が島田を受け入れるのも、結局は腹減って、食べるものがなくて倒れているときに、庭のトマトとキュウリを持ってこられちゃったから・・・・・・。

荻上:そこでほどけちゃったのか。

松山:やっぱり心を開かざるを得なかったですね。人の優しさに触れたというか。

荻上:映画に「いのちの電話」が出てきますけど、今はみんなツイッターなどで悩みをつぶやきますよね。先日、「もう死んでしまいたい」といったつぶやきを受け止めるサイトの運営者の青年と話をしたんです。彼は「原因があるというよりも、なんだかわからないけど、とにかく死にたい、という人がすごく多い」と言っていた。そして「そういうときに一歩踏み込んでくる誰かがいないと、止めることができない」と。「受け止めてあげる」とかではなく、とにかく一歩を踏み込まないといけないんだなと感じました。それがたぶん、この映画では島田の役割なんですね。

荻上直子さん

誰にだって「ひきこもり」の可能性はある

――誰でも生きづらさを感じる時代です。お二人も社会との関わりを絶ちたくなったり、「ひきこもり」に近い体験をされたりしたことはありますか?

荻上:ひきこもりと言えるかわからないですが、私はもともと一人が好きなんです。子どもや家族がいても一人で旅に出かけちゃいますし。それに一本映画制作が終わると2週間くらい、家にひきこもることはあります。外に出て「久しぶりに太陽を見た!」みたいな。松山さんはドラマ『こもりびと』(NHK、2020年)で、ひきこもりの青年を演じていましたね。

松山:はい。僕はひきこもりというのは、一つのカテゴリーとしての言葉でしかないなと思っています。どのくらい人と会わないとひきこもりになるのか、などという定義は難しいし、いまの状況から次の段階にいけるかいけないか、それがいつなのかは人それぞれです。それで言うと、僕は自分のことを絶対にひきこもりだと思っていて。

荻上:そうなんですか?

松山:僕は「ひだ」が多すぎるんです。「ひだ」というのは人との関わり合いの中ですごく敏感に触れてしまうもの、という感じで、僕はそれがすごく細かいんだと思うんです。誰も気にしないことを気にして考え込んでしまって、誰とも話をしたくなくなったりする。

荻上:そうなると精神的にひきこもりの状態になるんだ?

松山:でもそれって自分をガードするためのものだと思うんです。荻上さんが映画の撮影後に2週間ひきこもるのも、それ以上を出すことができず自分をガードして、そこから「回復する時間」のような気がします。

荻上:確かに、そうかもしれない。

松山:その感覚はどんな人でも持っている。やっぱ疲れたら休まなきゃいけない。だけど社会ってものすごいスピードで流れていて、それに合わせようとすると、めちゃくちゃ走らなきゃいけない。疲れるし、「休みたい」なんて言えないまま、同調圧力の中で走り続けて、そこから「もうダメです」って休んでいる人が、僕はひきこもりと言われている人たちなんじゃないかなと思っています。だからどんな人にもそうなる可能性がある。

荻上:すごくわかる。私もかなり社会から外れている人間だと思うし。

松山ケンイチさんと荻上直子さん

――松山さんはひきこもりのような状態から、どうやって一歩を踏み出すのですか?

松山:以前はゲームをすることで、自分を保っていたりしていました。「ゲームばっかりやって!」とか否定的に見られがちですけど、ゲームで命を繋ぎとめている人たちもたくさんいると思うんです。でも今は新しい目標が見つかったので、ゲームに没頭する時間がものすごく少なくなりました。

荻上:目標って?

松山:ざっくり言うと、日本の森林や生態系について自分たちができることはなにかを考えて活動する、という感じです。森林に関わる色々な人たちと話し合い、有害駆除された鹿や動物たちの皮を使ったブランドを立ち上げました。今まで捨てられてしまっていた皮をアップサイクルすることで、環境負荷などの無駄を省きたい。それは結局、生き方について考えることにつながりますから。

荻上:松山さんは、移住されたんですよね。

松山:数年前から二拠点生活を始めました。森林や生態系に関心が沸いたとき、ポンとその場所に呼ばれちゃったというか。自然からもらえるエネルギーは確実にあります。だから山でひきこもったりすると、また違うかもしれない。めちゃくちゃ健康になって帰れると思います。ただクマやスズメバチには気をつけないといけないけど(笑)。

荻上:森は確かにいいですよね。映画『かもめ食堂』(06年)をフィンランドで撮影したとき、現地のプロデューサーが森の中に建てた、電気も水もトイレもない小屋に遊びに行ったんです。すごく浄化される感じがしたんですよね。これは真似したいなと、いまも一人でよく東北に行ってキャンプをしたりしています。そうやって自分のバランスをとっているのかな。

松山ケンイチさんと荻上直子さん

相手を観察し、それぞれのやり方を見つけよう

――しんどいとき、疲れたとき、どこかに居場所があることは大切ですね。でもそれが家庭だと、ときに家族との関係が難しくなりがちです。

松山:僕、ひきこもりの方たちが作っている「ひきポス」っていう雑誌を読んだんです。彼らはものすごく繊細な文章を書くし、分析力もあるし内容もおもしろい。それにとてもやさしい言葉を選ぶんですよね。でもごくごく一部の人が事件を起こしたりすると「ひきこもりは危険だ」とレッテルを貼られてしまって、社会や家族から「なんとかしないと」と圧をかけられてしまう。親にも信頼されなくなってしまうと、子どもはどこを頼りに立ち直っていけばいいかわからなくなる。山田と島田のように、一緒にごはんを食べるのも難しくなっているかもしれないけれど、それでもできるだけ家庭のなかで相手にアンテナを張って、観察することが必要なのかな、と思います。

荻上:私には10歳になる双子がいるんですが、自分が子育てにそんなに向いてないなってすごく思います。仕事と家庭のバランスの取り方がどうもうまくなくて、子どもとずっと一緒にいると、どうしたらいいかわかんなくなっちゃうんですよね。

松山:イラっとするときありますよね。僕も父親を始めてまだ10年しか経ってないので、ずっと実験中です。お互い「こういったら、こうなるのか」と探っています。結局、親子一人一人の状況は違うから、本に書かれているような正解はない。それぞれのやり方や答えを見つけていかないといけないんですよね。

松山ケンイチさんと荻上直子さん

自分を肯定していい、そこにいるだけでいい。

――いま「生きづらさ」を感じている人や、他者との関わりが難しくなっている人に、何か助けになるようなヒントやメッセージはありますか?

松山:僕はやっぱり「自分を肯定する」ことが大事だなって思うんです。つらくなっている人は自分自身を否定していて、周りにも否定されて、ギリギリで生きている状態だと思う。僕自身もそういう部分があります。でも最近は自分を肯定するようにしています。例えばゲームでもアニメでも、周りが「え?」と思うようなものでも、自分が好きで熱中していることがあれば、それを否定しながら進むよりは、肯定していくほうがいい。自分にとってやりたいことであれば、やっぱりそれは必要なものなんです。それに、いずれ違う「必要なもの」ができて興味の対象が移っていくと思います。自分を保つため、僕がゲームを1日8時間やっていた時期がもうなくなったように。だから目の前のものをとりあえず楽しもう、自分を肯定しよう、って思ってほしい。

松山ケンイチさん

荻上:その考え方、すごくいい。私最近、子どもたちが書いた「将来の夢」が一様に「人の役に立ちたい」になっているのを見て、すごくモヤモヤしたんです。「え? 人間って人の役に立たなきゃいけなかったんだっけ?」「何か意味のあることをしなきゃ、人って生きちゃいけないんだっけ?」って。そんなことを言ったら、映画監督なんて一番、生産性のない仕事かもしれないし。

松山:それはちょっと悲しい(笑)。

荻上:そう。やっぱり「自分が何の役にも立っていない」とか「だから自分が必要ない」とかという考え方は違うんじゃないかと思うんです。「そこにいるだけでいい」という感覚が大切だな、と。飼っている犬や猫がかわいくて「もうそこにいてくれるだけで、ありがとう!」みたいな感覚ってありますよね。人間もそれでいいんじゃないかと。人の役に立つとか、そういうことは関係ない。そこにいるだけで十分「あり」なんです。でも今、社会がそうではなくなって「何かの役に立たなければ」と思う人たちが増えている。だからどんどん、外れてしまう人が出てきてしまう。人は生きている理由とかがなくても「そこにいていい」。そういうことをこれからも映画で描いていければ、と思っています。

荻上直子さん

『川っぺりムコリッタ』
北陸の小さな町の塩辛工場で働くことになった山田(松山ケンイチ)。「ハイツムコリッタ」という名の安アパートに住み、できるだけ人と関わらず生きていこうと決めていた山田だったが、隣人・島田(ムロツヨシ)が「風呂を貸してほしい」と上がり込んできた日から、静かな日々が一変する。夫を亡くした大家の南(満島ひかり)や墓石販売をする溝口(吉岡秀隆)などのアパートの住人たちと関わり出した山田に、少しずつ変化が訪れる――。

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荻上直子さん

PROFILE

荻上 直子(おぎがみ・なおこ)

1972年、千葉県生まれ。映画監督・脚本家。代表作に『かもめ食堂』」(2006年)、『彼らが本気で編むときは、』(17年)ほか、ドラマでは中村倫也主演の『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京、21年)など。

荻上直子さん

PROFILE

松山 ケンイチ(まつやま・けんいち)

1985年、青森県出身。俳優。近年の主な出演作に『怒り』(2016年)、『BLUE/ブルー』(21年)、『ノイズ』『大河への道』(ともに22年)などがある。主演映画『ロストケア』(23年)の公開を控えている。

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